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神戸地方裁判所 昭和31年(モ)155号 決定

申立人 小寺一夫

相手方 小城芳武

主文

本件保証取消の申立を棄却する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

本件保証取消申立の趣旨と理由は、「申立人、相手方間の当裁判所昭和二十九年(ヨ)第六六五号事件について、申立人は、裁判所から命ぜられた保証として、同年十二月二十日神戸地方法務局に供託番号同年(金)第三、三一三号を以て金七万円を供託した上、『右両名間の当裁判所昭和二十九年(ケ)第二八七号不動産競売事件の競売手続を、本案判決のあるまで停止する。』との仮処分決定を得た。しかるに、申立人は、右仮処分事件の本案訴訟である当裁判所昭和三十年(ワ)第四〇号事件において、同年十二月二十四日敗訴の判決を言い渡されたので、大阪高等裁判所に控訴を提起し、且つ、同裁判所昭和三十一年(ウ)第二二号事件において、同裁判所から命ぜられた保証として、大阪法務局に供託番号昭和三十年(金)二、〇五二九号を以て金十万円を供託した上、『前記不動産競売手続を右本案控訴判決のあるまで停止する。』との仮処分決定を受けた。よつて、申立人が第一審における仮処分決定を得るために立てた保証は、その事由が止んだものであるから、これが取消を求める次第である。」というにある。

しかし、当裁判所は、右申立人の主張がそれ自体失当であると考えるものであつて、左にその理由を述べる。

民事訴訟法第五百十三条第三項、第百十五条第一項によれば、仮差押又は仮処分のために保証を立てた者が保証の事由が止んだことを証明したときは、裁判所は、申立により当然保証取消の決定をしなければならないが、右規定に基く保証取消の要件をみたすためには、同法第七百四十九条第二項所定の期間が徒過した場合とか、債権者勝訴の本案判決が確定した場合のように、仮差押又は仮処分が相手方に何等損害を加えるものでなかつたか、そうでないとしても、その損害が法律上相手方において受忍すべきものであることを確認するに足る事情が発生したことを必要とする。

しかるところ、申立人が、本件保証取消の原因として指摘するのは、(1) 第一審における仮処分決定に基く不動産競売手続停止の効果が、同審の本案判決言渡により消滅したことと、(2) 申立人が、同一競売手続の再度停止を内容とする控訴審における仮処分のためにあらたな保証を立てたことの二点に尽きる。しかし、仮処分命令の執行の効果が将来に向つて消滅したからといつて、既往の執行に基く相手方の損害を当然に無視し去ることはできないし、右控訴審の仮処分のために立てた保証が、第一審の仮処分による相手方の損害の賠償請求権まで担保すると解するのも相当でない。もつともこの後の点については、控訴棄却の判決及び第一審判決の執行を停止するため上告裁判所が保証を立てさせたときは、第一審判決の執行を停止するためさきにした供託物を還付すべきものとした大審院昭和三十年十一月十五日決定(大審院民事判例集第七巻九九三頁)や、第三者異議訴訟事件の控訴審における執行停止命令のために命じた保証は、第一審における執行停止によつて生じた損害の賠償請求権をも担保するという東京高等裁判所昭和三十年十月二十九日決定(判例時報第六九号)など、反対趣旨に見えなくはない判例が多いけれども、その当否は、甚だ疑問である。殊に、上訴審において立てさせた保証が、原審のそれより低額であつた場合、前掲諸判例の見解の不合理は、極めて明瞭であるといわなければならない。そして、かりにこれらの判例が正しいとしても、本件事案に適切であるとはにわかに断ずるを得ない。従つて、申立人の主張は、それ自体保証取消の事由を構成しないものである。

よつて、本件保証取消の申立を失当として棄却することとし、なお、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 戸根住夫)

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